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明るい香港(3)

明るい香港

こんにちは。香港在住弁護士のマイクです。

2020Policy Address」いかがですか?
88ページもある長い資料なのでなかなか大変ですが、見出しのタイトルで興味のあるところから読んでみるのもいいかもしれません。

これを読む上で、全体像として理解しておきたいところ背景も含めて説明します。

「一国二制度」は崩壊した?

この制度は、香港が中国返還後も50年間その政治体制を変更せず高度の自治権を有する制度です。しかし、我々の理解と中国の理解とはかなり乖離があります。

我々はこの制度を、香港が返還前と同様に中国から自由で開かれた都市として扱われ、政府もいずれ民主化されるものと解釈し期待していました。なので、民主化を求めるデモや紛争が政府により鎮圧され、民主化運動が完全に制圧された時、一国二制度が崩壊したと嘆きました

中国から見た一国二制度は違います。香港は中国の行政区の一つですからあくまで中国(一国)の一部であることを前提とした香港の自治(二制度)です。返還前でも民主化はしていなかった香港にとって民主化運動は「政治体制を変更」する運動であり、中国にとって「一国」を倒す革命と同義ですから当然制圧します。「一国」二制度を守るために。今は(中国から見て)政治的にも安定し、正しい一国二制度が機能しています。

中国は、GBAという中国経済と世界経済をつなげる大きな国際的金融・ビジネスハブを作ろうとしています。そのためには香港に国際金融センターとしての特権を与えながら、中国本土の一部として他の中国都市と協力・補完関係を築いて中国と同じ政治体制で機能させる必要があるのです。

GBA構想って何?

GBAは、香港、マカオ、広東省の九つの自治体で構成されるベイエリアのことです。ここをニューヨーク、サンフランシスコ、東京に並ぶ一大経済・ビジネスハブにするというのがGBA構想です。すでにそれぞれ独立して発展している香港、マカオ、深圳、広州をひとまとめにし、周辺地区も巻き込んで化学反応を起こさせ大きな経済圏に発展させようというものです。そのために必要な施策がいくつも具体的に書かれています。GBA内では、往来が自由となり、銀行業や証券業などの登録やライセンス、新薬の承認、許認可、研究開発、資金運用、投資、教育、医療、福祉、住居、就職と、ありとあらゆるものの垣根がなくなり、まるで一つの行政地区のようになります。その一方で香港が世界に門戸を開いており、中国都市が中国本土に門戸を開いていますから、ここが中国と世界を結ぶハブになるのです。その環境を求めて世界中から人材も資金も集まり、中国政府も惜しげもなく人的物的制度的に援助するので、近い将来必ず目覚ましい発展を遂げます。
サイエンスパークもこの中で重要な役割を演じています。香港と深圳が隣接していることで、ここをI&T Co-operation Zoneと位置づけ、GBAでビジネスを展開させるスタートアップの拠点となります。
GBAでは「Wealth Management Connect Scheme」というシステムがすでに始められています。これまで香港だけで担っていたゲートウェイの役割ですが、GBAの金融機関を通じて相互乗り入れを可能にし、中国本土の投資家のオフショア取引、また海外投資家の中国投資を促進します。

今後の香港を語るにはGBA構想は外せません。

その他、Policy Addressには香港の個別の政策が各方面にわたっていくつも詳細に記載されています。そのどれも楽しいのですが、その中で興味のあるものを二つ。

iAM Smart

香港で今年前半にコロナワクチンを摂取した際に、「これダウンロードしてね。」と案内の人に言われたのが「iAM Smart」。ワクチン摂取証明の電子版かなと思ったらもっとすごいアプリでした。そもそも香港ではほとんどの行政手続きがオンラインでできるのですが、このアプリは、税務申告、免許証の更新等々、それらオンライン手続きのサイトに案内してくれるワンストップのアプリです。加えて、コロナ陰性証明はもちろん、病院の受診記録、投薬記録その他あらゆる個人記録を参照することができこれ一つで行政手続きや行政機関の利用がスムーズにできます。これ、昨年導入を決定し、今年実際に導入されたものだったようです。

キャリード・インタレスト

ファンドビジネスをしてない人には全く興味のないところですが、香港をPEファンドのハブとしての機能を充実させるよういろんな手を打ってきています。昨年末の段階で、香港で運用されるPEファンドのキャリード・インタレスト(運用者の成功報酬)の税制上の優遇措置を導入するとしていて、実際今年になってキャリード・インタレストが非課税となりました。これ、PEファンドマネージャーにとってはとっても大きなことで、香港でPEファンドを運用する無茶苦茶大きなインセンティブになります。これに先立って、昨年8月、香港でLPF (リミッテッド・パートナーシップ・ファンド)制度が導入されています。それまではケイマンなどにファンドを組成して香港で運用していたのだけれど、それが香港で完結できるようにしました。これだけでも大きなインセンティブなんですが、キャリードインタレストの税務上の扱いが問題として残ってました。これも今回明快に解決し、しかも親切にも前年に遡及して適用です。ファンドマネージャーは香港に集まりますね。

Policy Addressには、すぐに実行に移すものから、10年後、20年後の計画を示すものまで様々です。これも民主的でない政権のおかげで、実行に移すとしたものは本当にすぐに実行されているし、長期計画も政権が変わらないだけにその実効性に信頼が置けます。

ではまた次回。

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