タックスヘイブンつくろうよ(続き)。
こんにちは。香港在住の弁護士マイクです。
前回、沖縄を金融特区でケイマンにしよう、東京郊外に特区で香港作ろうと提言しました。ここ、もう少し深掘りしてみます。
まずは沖縄。実は沖縄は2002年から経済特区と指定されていて、名護市がもう金融特区です。他にも沖縄の都市が物流特区、情報特区として指定されてます。でもどれもはっきり言って成功してません。特区の恩恵を受けるには認定事業者になる必要があるのですが、20年近くたっても金融特区の認定企業は3社に過ぎません(平成30年現在)。うまくいかなかったんで何度も制度を改正したのにこの結果です。なぜか?まずはここをはっきりさせましょう。
名護市の「金融特区」の目的は
沖縄における経済金融の活性化を図るための多様な産業の集積を 促進し、「実体経済の基盤となる産業」と「金融産業」を車の両輪として、沖縄の経済金融を活性化
にあります。抱いているイメージは、税制を優遇するから沖縄に金融会社作って雇用を創出してね、他にも産業誘致するから大丈夫だよね、というものです。そのため、認定事業者になるには沖縄で新たに会社を設立し、常に5人以上(最初は20人だった!)の従業員を雇うこと。そうすれば10年間(だけ)税金を40%(だけ)安くしますよ、という内容です。
気持ちはわかるけど、沖縄に新しく銀行設立しろって?最初から5人雇って沖縄で営業しろって?沖縄に誘致する事業者が新たな顧客って言ったってそれがどのくらいのものなのか全くわかりません。顧客から見ても、新しい銀行ができたからさあお金預けましょう、融資受けましょうとはなりません。税金が10年間だけ少し安くなるくらいなのにハードル高過ぎます。しかも県知事(これも最初は総理大臣だった)の認定が必要。新規事業者は初期投資にお金がかかるので、開業後の数年間、下手したら10年くらいは余裕で赤字です。なので最初の10年だけ優遇税制であってもなんの魅力もありません。沖縄の雇用を創出したい、経済を促進させたいという気持ちはわかりますが、ズレてます。
ケイマンはどうなっているんでしょう。実はケイマンの本来の産業は観光です。沖縄と一緒。トム・クルーズが主演した「ザ・ファーム」という法律事務所がらみのサスペンスでリゾート地としてケイマンの綺麗なビーチやホテルが出てきてますね。昔、まだ駆け出しの弁護士だった頃、勤めている法律事務所にケイマンの法律事務所の弁護士がやってきました。その際に事務所のパンフレットを見せてもらったんですが、白い砂浜と綺麗な海が広がっているビーチリゾートの写真が載っていて、「オフィスはどこ?」って聞いたら、「このビーチから5分くらいのところ。」だと!思わず「雇ってください!」って言いました。
そうは言ってもケイマンの稼ぎ頭はもちろん金融サービス業です。沖縄特区の考えとの大きな違いは、ケイマンに作る会社での雇用やケイマン内での事業活動など一切当てにしていないこと、ルールさえ守れば誰でも簡単に会社ができること、につきます。ケイマンにファンドを作るために設立する法人に従業員はいません。Directorが一人から数人指名されますが、これも全員ケイマン非居住者でかまいません。業務内容はファンド運営なので、顧客も事業対象も全てケイマン外です。このようにケイマンにファンドを作ってもそのファンド自体はケイマン内の雇用や事業に全く影響を与えません。一方、会社を設立するための手続き、設立後の管理、運営ための法律事務所や会計事務所、サービス会社等の周辺事業のための会社は多数存在します。実際、ファンド設立の手続きや登録手続きは現地法律事務所に依頼しますし、その後の管理も現地の会社に依頼します。結果的に周辺のサービス業で現地の雇用は創出されます。
もう一つ付け加えておかなければならないのは、ケイマンにはケイマン金融監督庁(Cayman Islands Monetary Authority, “CIMA”)が存在します。ケイマンに適正にファンドを設立し運営するにはCIMAの監督に従わなければなりません。無節操に世界中からの資金を集めれば容易に非合法な資金も集まってきてしまい、健全な資金や企業は逃げてしまいます。それを避け、世界中の健全な金融機関が安心して集まることができるようCIMAがあります。ところでこのCIMAのHPいいですね。世界に金融機関いらっしゃいという姿勢が溢れています。とてもお役所のものとは思えない。フレンドリーなのは税金だけではなくて、例えば世界中の通貨を外為規制なく取引できることや、ファンド設立手続きの迅速さ(数日でOK)等、色々な面でとにかくストレスを感じることがなく便利です。
結論。現在の沖縄特区は、沖縄での雇用創出と経済促進を目的とし企業にその任務を負わせつつ誘致しようとしており、そのための雇用条件等いろいろ設定しています。結果的に企業にとって進出するリスクが高くなる一方で受ける恩恵も限定的、時限的です。そうであれば沖縄進出を躊躇するのも当然です。まずはその様な条件を撤廃して沖縄に簡単且つ安心してファンドが設立できる環境を作ることです。「特区」と言いましたが特区が通常の規制を「一時的」に排除して産業の導入を図る制度であるなら、沖縄は特区ではなく恒久的な制度とすべきです。そうすれば雇用創出や経済促進は結果としてついてきます。一度ケイマンのシステムを徹底的に調べて、それをコピーした制度を作ってみたらどうでしょう。沖縄がアジアのケイマンとなれば、時差もなく便利なのでアジアのファンドが沖縄に設立される様になり、雇用や経済は黙っていても促進されます。時間はありません。香港はもう始めてます。
ではまた次回。